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11月9日 朝食 スンドゥブ 【釜山「食堂・屋台メニュー」全24食】 

キムチのチとチゲのチ Ⅱ
【釜山「食堂・屋台メニュー」全24食】
11月9日 朝食 スンドゥブ

(文・写真 大野金繁)

地下鉄車内

東横イン釜山駅1では日本と同様に朝食サービスが付くそうだが、その隣、私が泊まるアリランホテルにそのようなサービスはない。以前はレストランがあり、館内で食事もできた。いまその1階レストランはファミリーマートに衣替えしており、それはそれで何かと便利ではある。私は風呂上がりに爪切りを買ったぞ。たぶん東横インの宿泊客も利用してるんじゃないかな。

さて、釜山2日目の午前7時、私は朝飯を求めてホテルを出た。釜山駅構内1階にはレストランやカフェ、ファーストフード店がけっこうな数並んでいる。しかしまだ開いていない。2階にも飲食店はあるが、なにしろ巨大な空間であり、空振りした場合の時間のロスを考えると、そうそうはうろつけず、結局、東横インとアリランホテルの間の通りへ。そこにも食堂が並んでいる。

だいたい韓国の通りは食堂で出来ていると言ってよく、通りが食堂で出来ている以上、街は食堂で出来ていると言ってよく、つまるところ、朝鮮半島は食堂で出来ていると言っても過言ではない。それほど食堂が多いのだが、早朝から営業する店はやはり限られる。その中でうまい朝飯を探し出せる人こそが「韓国の達人」だ。もちろん、私は達人ではない。

入った店もふつうであった。ほかにひとり客がいるだけで、店のおやじは半起きの状態。やる気が出るまであと2時間はかかりそうだ。空気がぬるく澱む中、唯一食欲を刺激されたのは、婆さんが白菜を漬けてたこと。キムチが自家製っていうのは、いいよな。

キムチチゲ、テンジャンチゲ、ユッケジャンなどのメニューからスンドゥブを選択。

スンドゥブは漢字だと「純豆腐」と書かれることが多く、純な豆腐って、もじもじするばかりでちゃんとコクれない男子高校生みたいな豆腐かな?と思うわけだが、水分を抜く前の、日本で言えば「汲み出し豆腐」がそれに当たる。とわかっても「純」の意味合いがしっくりこないわけだが。

それはともかく、スンドゥブは豆腐の名称であるとともに、料理名でもある。その料理は形態からすると「チゲ」に分類できる。キムチチゲがキムチを使ったチゲであるように、スンドゥブもスンドゥブ(純豆腐)を使ったチゲで、本来なら「スンドゥブチゲ」を名乗るはずのところ、なぜかチゲを省いた。なぜ省いたか、その理由がわかれば私もたいしたもんだが、残念、わからん。

ただ、豆腐を使ったトゥブチゲ (豆腐チゲ)という料理があり、トゥブチゲとの区別を狙ったのかも、と考えたりする。おそらくトゥブチゲには純豆腐ではなく、ふつうの豆腐が使われるはずだ。そのふつうの豆腐に対してスンドゥブは、「悪いけど、オレ、純だからさ、チゲ抜きでいくわ」と、その特質をきわだたせた、みたいな。

そんな例はけっこうある。ジョンと言えばレノンだし、長嶋と言えば茂雄、小泉と言えば純一郎というように(例が古くてすまん)、名もしくは姓だけでそのフルネームを想起させる人々が存在し、それだけではなく、そういう人々は名もしくは姓だけで、その個性や属性をも喚起させる。ジョンの場合は〈オノ・ヨーコの旦那〉や〈ビートルズ〉、 長嶋は〈監督〉や〈巨人〉、小泉は〈変人〉や〈総理〉というように。スンドゥブも同じなのではないか。「スンドゥブと言えば、そりゃあもう、性格は純で、属性はチゲだぜ」と。

あるいは、こうも言える。ふつうの豆腐はさまざまな料理に使われるため、トゥブチゲは「豆腐を使ったチゲ、トゥブチゲです」とあらためて自己紹介する必要がある。一方スンドゥブは、きわめて限られた料理、それもほぼチゲのみに使われるため、「オレ、スンドゥブ」で「純豆腐のチゲ」と了解してもらえる立場にある、と。

その恵まれた生い立ちをもつスンドゥブは、トゥッペギ(土鍋)に入ってテーブルに到着。ご飯、目玉焼き、マカロニサラダ、キムチ2種類、ナムル2種類が付いている。パンチャン(おかず)の充実ぶりは、さすが韓国の食堂。見直したぞ、おやじ。しかも、豆腐はちゃんと純豆腐だ。値段が安いので、ひょっとするとふつうの豆腐を使いつつスンドゥブを騙る可能性もないことはない、と注視していたのだ。

そういう店がある可能性は否定できない。というより、日本語メニューを用意する店では、ハングルは「スンドゥブ」でも日本語は「豆腐チゲ」と表記する例が目立ち、これでは「スンドゥブ」と「トゥブチゲ」の境があいまいになるばかり。同じことはニューカマーが経営する日本の韓国料理店にも言えて、そういう「中途半端な表記・説明でよし」とする姿勢に、私はいつも苛つく。

「スンドゥブだって豆腐なんだから、豆腐チゲでいいじゃないか」という理屈もわかるが、だったら何のために「スンドゥブ」の呼称があるかってことだ。頼むから、もうちょい表記や説明に精魂傾けてくれ、自分らの食文化じゃないか、と思うのだ。

こういうふうに書くと怒ってるように思われるかもしれないが、実のところ面白くてたまらない。ほんのささいなことであっても、文化的なズレを自覚できたとき、心底「韓国って楽しいな」って思う。今朝も、スンドゥブひとつでこんなに楽しめた。今日もきっといい日だろう。

スンドゥブ/5000ウォン
店名/プヨンフィガン
地域/釜山駅近く

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